- アルバムタイトルの『永久凍土』がいい言葉ですよね。で、歌詞を通して読んでみると、よく〈水〉が形を変えて出てくるな、と思ったんです。〈vapor(蒸気)〉、〈霧〉、〈水の泡〉、〈大波小波〉、〈海原〉、〈夜露〉…他にもたくさん登場するので、もしかして日食さんの中にそういった水が生命の象徴としてあって、それが地中で凍ってるのが『永久凍土』なのかな、なんて深読みをしてしまいました。
「今言われて初めて気付きました(笑)。」
- 水と天気にまつわる歌詞が多くて、それこそ『水流のロック』なんて代表曲もあるので、何か水について意識されているのかと思いました。
「全然無意識ですね。でも、『深夜潜水』とか『座礁人魚』って曲もあるし、元々、深海生物がすごい好きで図鑑とかDVDもよく観るから、そういうのもあるのかもしれないですね。自分の手の届かない場所というか--人間って水の中に落ちたら呼吸も出来ないし、好きなようにも動けないし、自分の常識の及ばない場所で。そういう水中への憧れや怖さみたいなものはあって、それを無意識のうちにテーマにしてたのかなあって思いますね。それはこのアルバムに限らず、もしかしたら日食なつこのテーマのひとつとしてあるのかもしれないですね。」
- 生の象徴でもあるし、かといって水で死ぬこともあるのは、なんとなく日食さんらしいですね。しかもそれが凍ってるなんて、と思ったけど、タイトルとは直接関係はないんですね。
「それは偶然の一致です(笑)。今作を『永久凍土』というタイトルにしたのは、私が東北生まれで、寒い険しい場所で育ってきたというのが自分のルーツとしてあって。ここまで10年やってきて、例えば東京や関西、九州といった大都市出身のアーティストと共演すると、価値観や音楽の色・肌触りも全然違うように感じられるし、それこそコンプレックスを感じていたんです。関西出身の方の〈市を挙げて応援されてる〉みたいな圧の強さとか、九州出身の女性アーティストのアクの強さとか、そういうものへの憧れがあって。東北や私の生まれた町ではそういうのは全くないから悔しかったし、〈東北って言えばこうだよね〉みたいなカラーもあまりない。だったら自分が〈東北アーティストってこうだ〉ってことを見せて行こうって思い、寒さや真冬をテーマにしたアルバムを作ろうと思って、『永久凍土』という言葉を持ってきたんです。」
- 『あのデパート』という名曲もあるし、勝手に日食さんは花巻市の代表で、市のヒーローだと思ってました。
「いやいや、みんな大谷翔平選手(※)にしか興味ないですよ(笑)。ものすごく近い距離になれば振り返ってくれる人もいますけど、『あのデパート』を歌うまでは見向きもされなかったし。実は花巻ってそこまで寒くもないし、名物もそんなに無いし、全てが微妙で曖昧な場所です。」(※大谷選手は、花巻市と接する奥州市の出身。)
- 歌詞のなかには〈街と自分〉を対比するようなものも出てきます。例えば東京や、漠然と都会へのコンプレックスもありますか?
「あります。コンプレックスしかないです。たとえば東京生まれ育ちの子たちが組んだバンドを見れば、〈そりゃあれだけカルチャーに触れられれば、ああいう独創的な音楽を作るよな〉って思いますし。でも活動する動力源がコンプレックスみたいなものなので、19歳の時、東京で初めて音楽をやった頃から、〈東北人の音楽とは何ぞや〉って考えながらやってました。……私は本当に人がいる場所を歩くのが苦手で、どうしても他人と自分を比較しちゃうんですね。なので〈街〉っていうワードが出てくるんだと思います。」
- コンプレックスや怒りのきっかけが他人や街であったとしても、それを向ける矛先は他人や街ではなく自分になってきて、最後には自戒の歌になっていたり、ポジティブになったりする曲も多いですよね。
「それは昔からの癖というか、負けたくない精神みたいなもので、〈チクショー!〉と思ったらその〈チクショー!〉に最後は勝たないと気が済まないんですよね。だから歌詞の9割が苦情や不満でも、最後の1行は希望にしないと気が済まない。そういう性格の現れですかね。」
- だからネガティブな感情がほとんどでも、日食さんの本当の根っこの性格はポジティブなんじゃないかと思います。
「どうなんですかね、それがポジティブかは分からないですけど(笑)。ただ、小学生の頃はすごいポジティブで、その頃の自分にまだ立ち返ろうとしてる自分がいて、それを辞めたら、どんどんネガティブな大人になって本当に人間として終わってしまうので、自分へのささやかな抵抗が歌詞の最後の1行を明るくするんだと思います。」
- なるほど。最近は街に出てますか?
「いや、出てないですね(笑)。意識的に家にこもっちゃいます。すごい外に出まくってる時期と、全然外に出られない時期があって、レコーディングが終わって、撮影も外でやっていたのでそれが落ち着いたっていうのもあって、今完全にどこにも行かない日が続いてます。曲がすごい書ける時期とそうでない時期の波もあるんですけど、そういう高低差があるのを自分で理解しているので、〈出たくないなら家にいればいいよ〉〈書きたくないなら半年後にいっぱい書けばいいよ〉って思って、コントロールしています。」
- 家にこもってる日食さんは、夜型ですか?
「朝型ですね。朝早いんです。」
- 実は今作の中に〈時間〉が出てくる曲が3曲あって、『メイフラワー』には〈PM25:00〉、『致死量の自由』には〈夜中の3時〉、『タイヨウモルフォ』には〈午前5時〉と出てきますよね。それで〈日食さんって夜が朝までくっついちゃう人なのかな〉と思いました。
「基本朝型なんですけど、それらの曲に出てくる時間は、夜に対するイメージですね。」
- そしてアルバムの曲順に沿って時間が深くなっていくので、ここにも何か意図があるのかな、と思いました。
「あ、それは意図してますね。曲作りの段階では考えなかったですけど、歌詞のなかの時間軸や、歌詞の雰囲気を考えて曲を並べています。〈『Misfire』で夜に落ちて、『タイヨウモルフォ』で朝に向かう〉みたいな。そういうことに気付いてもらえると嬉しいですね」
- 曲順についてはまだ聞きたいことがあるので、後々それぞれの曲のところでもお聞かせください。